「ここがおかしいんです」と自分で言えない動物たちだからこそ、元気になってほしい。
私自身、小さい頃から犬を飼っていました。
気晴らしに散歩させたり、川遊びをさせたりして楽しそうにしている様子を見ると、こちらも楽しくなってくるのはあの頃から変わりません。
また伯父が農業高校の先生で獣医学部を出ていたということもあり、「動物のお医者さん」を比較的身近に感じる環境にいました。
物事の「しくみ」を調べるのが好きで、なぜ病気になるのか、なぜケガをするのかといったメカニズムを探るのが好きな性格だったこともあります。
ところがいざ大学の獣医学部に入ってみると、全く面白くなかったんです。
これは困ったなと思っていたのですが、卒業して大きな動物病院の勤務医として働くようになると認識が変わりました。
動物は、「このあたりの調子が悪くて」とは言ってくれません。
飼い主さまからの情報を元に、目の前で弱っている動物に対し、「なぜ」を手探りで調べていくしかないわけです。そしてこれだと思った治療をおこない、治していく。
なんて面白い仕事なんだと思いました。「この仕事は自分に合っていた」とやっとわかったのです。
大切なペットの病気が治って、ホッとする飼い主さまの顔を見るのは嬉しいですし、何より治療をおこなった動物が食欲を取り戻して元気になった姿を見るとやりがいを感じます。
流れ作業では築けない信頼関係を
しかし勤務医のままでは、やはりできることに限界があります。
組織に守られているという安心感はありますが、思った治療ができないストレスもありました。
たとえば「このお薬を使うとよく効くのに、コストが高いので上から止められてしまう」といったことです。
しかし今なら「マイナスにならなければいいか、やってあげよう」と自己裁量で決めることのできる良さがあります。
また大きな病院ですと、ちゃんとしているようには見えて実態は流れ作業になっていることもあります。
患畜ごとに担当医が決まっていればいいですが、大抵は複数の獣医師が「来た順番」に診るだけです。
すると医師によって治療法が違い、前回と今回ではやることが変わってしまうという事態も起こります。
これではなかなか獣医と動物の間で信頼関係を築くのも難しいのではないかと感じています。
今は休診日でも飼い主さまが困っておられるなら病院を開けることができますし、夜中の出産なども柔軟に対応することができます。
病気にかかった動物を預かりながら治療するということも、勤務医時代にはなかなかできなかったことです。
現在の場所にシモダ動物病院を設立して10年以上が経ちましたが、最近になってようやく信頼関係ができてきたのかなという気がしています。
当初は何もわからず始めた医院ですが、多くの動物、そして飼い主さまに喜んでいただく姿を見て、「やってきて良かった」と思っています。